飾り棚
お客様のご注文で家具を作りました。
お客様は最近小さなお子さんを亡くされた方でした。
そのお子さんの思い出の品や写真、お花などを置くための家具を探しているところでした。
私の作品を見て、気に入っていただき、ご連絡をいただきました。
無宗教なので、仏壇の形にはこだわらず、少し高さがあって、写真や花などが置けるスペースとお線香などをあげられるスペースが充分にあること。引き出しが付いていると便利。他にも子供がいて、その子も気に入るように少し可愛さや遊びがあってもいい。
というご希望で、半永久的に使う予定とのこと。
私のほうからいくつかアイデアを提案させていただき、最終的に決まったのが、写真のひな壇のような家具です。
永く使える家具
お客様のご希望を満たす形はできたものの、難しかったのはやはり半永久的に使えるように作ることでした。
私は家具制作のかたわら、家具の修理もしております。
修理してほしいと持ち込まれる家具のほとんどは、以下の3点が原因となります。
・接着剤の劣化により木の固定が弱まり、ぐらついてしまう。
・木の反りや伸縮を妨げる木の組み方がされていて、木が割れてしまう。
・塗装が劣化して、表面が汚くなってしまう。
こうしてみると、木材自体は本当に長生きなんですよね。
木材より先に、人が手を加えた部分がダメになってしまう。
永く使うには、この3つの問題をクリアしておかないといけません。
木の組み方
まず、木の組み方から考えました。
棚板は普通木目を横向きに使うので、最初は私もそのように考え、裏にアリ桟で反りを防ごうとしたのですが、脚を付けようとするとどうしても棚板の動きを邪魔してしまう。
また、今回は脚の下に引き出しボックスが収まるので、棚板の裏側に空間を作る必要がありました。そのこともあり、木目を横方向に使うと、どこかで無理が出てしまいます。
うんうん悩んだ挙句、木目を思い切って縦方向にしてみました。
すると、霧が晴れるように、問題が解決したのでした。
木目を縦にすると、棚板から脚まで木の伸縮を邪魔する部材がなくなり、また、裏に反り止めを入れずとも、段に組んだそれぞれの棚板同士が反りを防いでくれるようになります。
部材の接合
木の組み方が決まった後は、それぞれの部材の接合方法です。
接着剤は強度をあげるために使うのですが、時がたち接着剤が劣化したとしても、強度を維持しなければいけません。
部材の接合部で一番目立つのはやはり、段の棚板同士が直角に接合している部分です。
こんなふうに接合部が見付(家具の正面)に来ることは、普段あまりないことです。さらにこの部分は角を丸めて可愛さを出す必要がありました。
見た目も美しく、角を丸めても強度があり、さらに接着剤を必要としない接合方法ということで、通し蟻組みで組むことにしました。
桐たんすの天丸(天板と側板の組手)から着想を得ました。
通し蟻組みの強度は想像以上で、当初は裏に補強を入れるつもりでいたのですが、その補強を入れる必要もなく、まるで一枚の板のような強さでした。
見えない部分は接着剤とビスを使い、木栓でビスを隠しました。
塗装について
最後に塗装方法ですが、オイル塗装を選びました。
ウレタン塗装は劣化してしまうと一度工房まで運んで再塗装をしないといけないのに対し、オイルはご家庭でもメンテナンスができ、長い年月がたったとしても見た目が汚くなりません。むしろ、経年変化の味が出て、素敵になっていきます。
材料もヤマザクラなので、次第に赤みが増していき、良い感じの色になってくれると思います。
作り終わって
この家具制作は、私にとってもチャレンジングな部分が多く、だいぶ時間もかかってしまいました。
お客様にはお待たせしてしまったのですが、完成品を見てとても気に入っていただき、嬉しかったです。
亡くなられた小さなお子さんのためということで、私もいつも以上に力が入ってしまいました。
この文章を書いているのは、この家具を作ってから約4ヶ月後なのですが、今思い返すとこれを作っている約1ヶ月はあまり記憶がない。
あっという間に過ぎ、ずっと集中して作ってたんだなと思います。
なんというか、この想いがこの子に伝わるといいなと思います。
ベストを尽くしたつもりですが、私のした仕事がどうだったのか、その答えが出るのは何十年も先です。
良い仕事をしたねと言われたいなあ。
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