桐たんすのリメイク
桐たんすをリメイクしました。
思えば工房を構えて4年、やっと桐たんすをリメイクできたという気がしています。
というのも、私の工房の隣には桐たんすの職人さんが工房を構えてまして、そのベテランの職人さんは私が木工について質問しにいくと、いつも親切に教えてくれ、普段から一人でやっている私を気にしていてくれる、私にとっては師匠のような存在の人がいます。
桐たんすはもう売れない
その職人さんが、この桐たんす欲しいならあげるよ、これ使って練習しなよと桐たんすをくれるんです。そういうのを直しながら、桐の扱いについて勉強しているのですが、もう桐たんすは売れないらしく、家具の市場でも安い値しかつきません。
私は木工を始めるまで、桐たんすは見た事なかったのですが、その職人さんに頂いて、はじめて見た時の感想は「かっこいい」でした。なんでしょう、その完成された形と、精緻な作りと、色々なノウハウや技が詰まってるんですよね。全然古くさい感じはしませんでした。
なんでこれが売れないんだろうと不思議に思ったのですが、今の家は作り付けのクローゼットが増えて箪笥自体を使う人が少なくなったという事だそうです。
なら、現代の生活習慣にあうように、この桐たんすをリメイクしようと思い立ったのですが、それから色々と課題がみつかり、その課題をどうするか考えているうちに4年も過ぎてしまったのです。
その課題を幾つか紹介します。
桐の軽さ
まず、桐そのものの特徴なのですが、桐はとても柔らかい木です。その桐で作ってあるので、箱に組んであるとはいえ、耐荷重はそんなにない。着物を入れておくぐらいなら問題ないのですが、それが本やらテレビなどの電化製品などを置くとなると、ある程度の補強が必要になってきます。
桐たんすをテレビボードにリメイクする場合は、天板に硬めの木で作った天板を載せて補強したりするそうですが、そうすると今度は桐の軽さを犠牲にすることになります。
何かで読んだのですが、桐たんすは女性一人でも持てる重さというのが1つのメリットとしてあったそうです。桐たんすはユニット家具になっていて、だいたい2つか3つのユニットが重なって一棹(さお)になっています。そのユニット1つ1つには天板の左右に持ち手となる金具が付いています。
ちなみに、昔は引っ越しや、火事から逃げる時には、この桐たんすの持ち金具に棹を通し、肩に担いで運んだ事から、桐たんすの数え方が一棹、二棹というように単位に「棹」が使われるようになったそうです。
持ち運ぶ家具
桐たんすに限らず、昔の日本人は家具は運ぶものという感覚があったそうです。畳、障子、長持など普段は仕舞っておき、使う時に取り出して使う。バックパックみたいに背負えるよう、背板からニョキっと背負ひも(ショルダーベルト)が出ている箪笥も見た事があります。
こういった感覚は、重たい西洋家具が入ってきたことでなくなっていったのだと思いますが、私はこの感覚いいなあと思います。家具は運ぶものという考え方、好きなんです。
桐たんすをリメイクするとしても、なるべく桐の特性は活かしたいと思っていたので、補強する事でこの桐たんすを持ち運ぶことが出来なくのは嫌でした。
耐荷重をとるか、軽さをとるか。
桐たんすの塗装
もう1つ悩んだのは、桐の吸湿性と塗装の事です。
桐たんすの塗装で多いのが、砥の粉仕上げです。この砥の粉仕上げは、桐たんすを美しくみせるのにはもってこいなのですが、最後にロウびきして砥の粉をおさえているものの、濡れた雑巾で拭けません。濡れた雑巾で拭くと、汚れと一緒にこの砥の粉も落ちてしまうからです。
お客さんの中には、いくら拭いても汚れが落ちないんですけどって相談しに来る方もいるそうで、隣の桐たんす職人さんは嘆いていました。砥の粉はようは泥なので、濡れ雑巾で拭いちゃうとすごく汚れているように見えちゃいます。
他の家具とは違う扱いをしないといけない、そういった敷居の高さが桐たんすにはあるのかなと。他の家具と同じに扱えるようしてあげれば、もう少し気軽に桐たんすを使ってくれるのではないか。
そこで桐たんすにも他の家具と同じ塗装をしてみようと考えました。
桐の吸湿性
ここで、桐たんすのもう1つの特性、保存に向いているという事が問題になりました。
着物にカビが生えない、虫に食われないから着物を仕舞っておくのに桐たんすは最適だと言われます。着物に限らず大事なものを仕舞うのに桐箱を使うのはよく知られています。
他の方法で塗装することで、この保存性の高さが失われてはいけないと思った私は、なぜ桐は保存に向いているのか調べました。
はじめ、私は桐は吸湿性が高く、頻繁に調湿をするからこそ、内部の湿度を一定に保ち、保存性が高まるんだと思っていました。なので、桐の呼吸を妨げるような塗装をしてしまっては、元も子もないと。
調べるうちにこの考えは間違っている事に気付きました。
桐は収縮率が国産材の中では1番低かったのです。木材の膨張、収縮は、大気中の水分を木材が吸い込んだり吐き出したりして起こる現象ですから、収縮率が1番低いということは、吸湿性も1番低いということになります。
むしろ、収縮率が低いからこそ、引出しなどをぴったりと隙間なく作ることができ、その内部は外気が遮断され湿度変化を受けにくくしている、ということみたいです。
吸湿性が低いとはいえ桐は木材ですので、呼吸をします。気密性が高い上に、その内部空間内で桐が呼吸し、湿度をより一定に保つことが出来る。それが、桐の保存性の高さにつながっているというのが私の調べた結果でした。
虫に関しては、隙間が少ないから入りにくいというのもあるのでしょうが、桐たんすは、砥の粉と一緒にヤシャという液体を塗ります。ヤシャはヤシャブシの実を煮詰めた液体で、それ自体にタンニンが含まれていて、それが虫を寄せ付けない原因だそうです。
というわけで、私が最終的に選んだ塗装は、砥の粉とヤシャを塗った後、さらにその上からセラウッドです。セラウッド塗装は、耐熱、耐候性がある上に仕上がりが自然なので、最近私がよく使う塗料です。かなり高価なんですけどね。
実は調べている過程で、ウレタン仕上げの桐たんすも普通に売られているのを見つけ、なんだみんなやってるんだと思ったのですが、自分で納得したく長々と考えてしまいました。
あと、桐は吸湿性が高いのか低いのかはっきりしてほしいです。桐の特性についてたくさんの方が書かれていますが、吸湿性が高いと書いてあったり、いやそれは間違いで吸湿性が低いんだと書いてあったり、人によって違う。。
自分なりに調べて、私は吸湿性が低いという結論にしましたが、ずいぶん悩みました。
ようやく
さてさて、長々と書いてしまったのでもう終わらせないと。すいません。
そんなこんなで、今回リメイクした桐たんすに出会った事がきっかけで、よしリメイクに挑戦してみようと思ったわけです。
この桐たんす、近所の茶道具屋の主人が使っていたもので、廃業されるということで引き取らせてもらったのですが、さすがの立派さなんです。安い桐たんすは前桐、三方桐といって、見えない部分にスギが使われていたりするのですが、これは背板や底板まで桐の総桐です。それこそ、お値段は何十万としたのではないでしょうか。
見付に塗られている赤が印象的ですが、これはもともと塗られていた漆です。こういった遊び心も、なんだか粋に感じて、このまま捨てられてしまうのはもったいない、なんとかリメイクしてみようと思ったわけなんです。
そして、リメイクした結果が、写真のような感じなのですが、いかがでしょうか?
実際にどういうリメイクをしたのか、その他の写真などは、WORKSのKIRI chest01、KIRI chest02のページをご覧下さい。
まだ、うちには他にも桐たんすが4棹ほどあって、今回のリメイクが好評ならほかの桐たんすもリメイクして使って頂きたいと思っています。