父からの依頼
私の父親にベランダで使うリクライニングできるデッキチェアを作ってくれないかと頼まれ、そのデザインと制作をしました。
今まで、私は椅子を作るのを避けていました。腰掛けではなくて、背もたれのある椅子のほうです。お客様に椅子はないのですか?と聞かれても、椅子は作ってないんですと断ってきました。というのも、椅子は家具の中では人間との関わりが深く、いろいろと勉強してからじゃないと良いものは作れないと思っていたからです。
最近はガウディにはまっていて、動物のようなガウディの椅子を眺めていた事、その影響で曲線を使った作品を作ってみたかった事などもあり、父親からデッキチェアを依頼されたときに、ふとやってみようかなと思ったわけです。
さて、最初は父親の要望を満たすリクライニングチェアのアイデアを、勢いでいくつか描いたあと、図書館で2冊の本を借りてきました。
「椅子の科学」(心地よい椅子を科学する研究会編著)と「椅子と日本人のからだ」(矢田部英正著)という本です。
この2冊の本の対比が面白かったのと、その対比から感じた事をこのブログでは書いてみようと思います。
人間工学の姿勢理論
まず「椅子の科学」のほうには、タイトル通り、椅子や座り心地などを人間工学に基づいて分析しています。
人は立っている姿が自然であり、坐っていてもその立っている状態の背骨の姿勢を維持してあげれば、それが楽な姿勢である。そのため、椅子の背もたれは、背骨の形全体にフィットするようなS字の曲線を持つべきだ。
というものです。椅子を避けていた私でも聞いた事のある理論で、私も実際そう思っていました。座り心地のいい椅子というのは、背もたれがS字の曲線になっていて、背中全体にフィットする椅子だと。
座禅の姿勢理論
いっぽう、「椅子と日本人のからだ」のほうでは、その人間工学に疑問を呈しています。筆者の矢田部さんは、日本人の体にあう椅子はどんなのかという視点で考えられているので、人間というもので一括りにして考えている「椅子の科学」とは違いが出てきて当然といえば当然なのですが。
まず、西洋人と日本人は狩猟民族と農耕民族であって、体格が違っていると。また、立ち姿を自然の形としてきた西洋に対し、日本はいつも坐ってきた坐の文化だと。
なので、西洋人をベースに考えられた人間工学をそのままあてはめても、日本人にとって気持ちのいい椅子にはならないのではないか。
そうして、人間工学の姿勢理論に疑問を持った矢田部さんは、坐るとは何か?なぜ日本では椅子が発達しなかったのか?と考えはじめ、禅の姿勢理論へと行き着きます。座禅です。
禅の姿勢理論については、詳しくは本を読んで欲しいのですが、矢田部さんは次のように考えます。
人間には自然の姿勢というものがあり、その姿勢は自然であるがゆえに体のどこかに無理がかかることなく、ずっとその姿勢を保つ事ができる。その姿勢は、ひとそれぞれなので、一朝一夕で身に付くわけではないが、その姿勢になるよう補助することが椅子の役割ではないか。
2冊の本を読み終えて
なるほど、一度その「自然の姿勢」を身につけてしまえば、いつでも楽に座れるわけだから、椅子はその姿勢を身につけさせるための補助具というわけですね。
そんな矢田部さんはすでにその「自然な姿勢」を身につけられたそうで、背中の形を決められてしまう椅子にすわると、自分の姿勢と違うので、その椅子の背がうるさく感じるそうです。
こうやって2冊を読んで、洋の姿勢理論と和の姿勢理論を比べてみると、その違いが面白いですね。
私としては、今回の椅子作りに直接反映はされなかったのですが、姿勢の事を考えながら作れたので、読んで良かったと思ってます。
先日、作ったデッキチェアを実家へ持っていき、両親にも気に入ってもらえました。屋外に置かれる椅子なので、なるべく接着剤を使わない、使った接着剤も耐水性にし、木材の塗装は経年劣化で剥がれてきてしまうウレタン塗料は使わず、木固め剤とオイルで仕上げました。また、椅子の形自体も水切れがいいように、曲線を多用し、水が溜まってしまわないようにしました。
どうしても劣化してしまった部材は交換できるよう、それぞれの部材が交換できるような構造にもしました。
今後使われながら、この椅子がどのように変化していくのか楽しみです。
また、私の椅子作りの第一歩として、いよいよ自分も椅子を作りはじめてしまったなと、嬉しくもあり、また悩みの種が増えてしまった不安もある心境です。
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